感情で生きる事は、時として芸術である。
そして、子供は感情で生きている。
ゆえに、子供は時として芸術と言える。
向日葵がいよいよこらえきれずに、ガックリとうな垂れてしまった2023年の夏。
連日猛暑を超える気温を記録しており、まさに昔とは次元の違う熱気が、日本全体を覆っている。
私のお盆休みは約1週間。
特に旅行なども計画していないが、県内帰省や友人とのBBQといった、フレンドリーな行事で予定は詰まっている。
私と妻が朝食を済ませた頃、2階からおもむろに『アンパンマーン!』とヒーローを呼ぶ声が聞こえた。
米粒が付いたお椀を丁寧に洗いながら、私は妻に『娘ちゃん起きたっぽいわ。』と伝える。
娘はyoutubeの事をアンパンマンと表現する。
『起きたよ!早く迎えに来て!youtube見たいから!』という事だろう。
ヒーローを呼ぶ声にいざなわれ、妻が2階へ消え、娘を抱えて戻ってきた。
それは本当にヒーローの様だった。
睡魔から助け出された娘は、妻の腕の中で半笑いである。
妻がそっと娘を床に降ろした瞬間、
『フフフ~~!!』と、半分だけ塞がれたクラクションの様な音を口から発しながら、
全力でソファに飛び込む。
堪えきれず、ややズレるソファ。
壊れる!!勘弁してくれ!!ソファの代わりに私が心で代弁してみる。
そんな心配などお構いなしで私にリモコンを持たせ、お気に入りのBabyBus(幼児向けアニメ)を映し出すよう指図する。
いつも通りの朝である。
気まぐれに娘に聴いてみることにした。
『今日何かやりたいコトはありますか?』
『バスのる!』
『バスですか?』
『ん!バスのる!!』
『どんなバスのるの?』
『赤いの!』
どうやら地元を周回するバスに乗りたいらしい。
丁度その日は午前中予定もなく、公園のカンカンに熱せられた滑り台をせがまれるよりもマシな気がしたので、プチバス旅行に出る事になった。
9:20。バスが近くの停留所に訪れる時間だ。
今は8:00ちょっと回ったところ。
『もうちょっと待とうね』
『いや!バスのる!バスのるーーーー!!』
もうバスに乗るイメージが出来上がっている娘は、待ちきれずに叫びだす。
『わかったわかった、ほな準備しよっか。』
『うん♪』
停留所までは徒歩2分。1時間前なのにいそいそと家族で準備を始める。
さ、ちょっと早いけど、行こうか!
休日のバス旅行に相応しい正装に着替え、記念撮影。
運悪く目をつむってしまう娘をよそに、一団はバス停へゆっくりと歩きだす。
まだバスの到着まで30分以上ある。
途中お茶を飲んだり、遠回りしようとして、娘に怒られたりしながら、バス停に到着。
バス停に着いたはいいが、中々来てくれないバスにふてくされる娘。
その怒りは私に向けられる。なんでやねん('Д')
炎天下高い高いや、酷暑徒競走で、何とか機嫌を取っていると、お待ちかねのレッドボディバスが見えてきた!!!
待ちきれない様子を隠しきれず、いそいそと、一方で少しビビりながら乗り込む娘。
ご満悦です。
と言わんばかりの顔でバスの雰囲気をテイスティングしている。
少し大人しい娘に、聴いてみる。
『バスはどうですか?』
どうやらイイ感じらしい。良かったね!
そして、揺られる事10分。いい加減慣れてきた娘は、いつもの元気を取り戻す。
※奇声を上げます。音量注意。
私たち旅団以外は居なくなったバスの中に、娘の奇声がこだましまくる!!
人が来たら静かにしてね!!
そうこうしているうちに、私も地元ながら知らない道に、
あ、こんなところに店があんだ。
おぉ、ここに通じてんだこの道!!へぇ~
新鮮な気持ちでバスの窓枠を通して、見慣れた街の見慣れない景色を楽しんだ。
『いやー、娘よ、バスってええもんやなぁ。ありがとな、バス旅行を提案してくれて。きっと君もた、、、』
寝てる!!
完全にバスと同化し始める娘。。。
どうかしてるぜ。
振動と音、におい、雰囲気。きっと心地よいんだろう。
そのまま寝かせて、もう少しだけ私は外の雰囲気を楽しむ事にした。
一度終点を経由して、再度周回を開始するバス。
ふと娘に目を向ける。
いや、もうジュリーやん。。。
ジュリーになってもうてるやんか。
TOKIO やさしい娘が眠るバス
TOKIO 娘の意識飛ぶ
暫く、往年のアイドル歌手の形態模写を、まざまざと見せつけられる。
そしておもむろに、、、
覚醒。
ようこそ現実へ。
そして、もうすぐ終点へ。
45分の旅は、スタート地点と同じ風景で終わりを告げる。
家について、満足気な顔を浮かべる娘に訊いてみる。
『バスはどうでした?』
『楽しかったー!』
そう言いながら、扇風機のスイッチをonにし、ソファによじ登って、アンパンマン!と言い放ち、再度BabyBusを眺める。
そして思い出したように私にこう言った。
『バスのる!』
うそ、だろ、、?
芸術とは、表現者と観察者の間で起こる情動の事であり、
今まさに観察者である私に起こっている事実である。
そんな人生でたった一度の2023年夏の朝。